退職して専業主婦に

これは夢だ。

 

私が、頭の中に封じ込めてきた二十八年間の淫夢なのだ。

 

男根を見たことがない私に、それの先端が見えないのはあたりまえだ。

 

だが、どうしたわけか、感じることはできた。

 

目覚めたときには、膣の半ばまで入り込まれていた。

 

私が目覚めたのを関知したかのように、動きを止めたそれ。

 

いいのよ、かまわないから、もっと奥まで入ってらっしゃい。

 

心の中で呼びかけると、恐る恐るといった感じでそれが再び奥に向かって動き始める。

 

痛くも、気持ち良くもない。

 

入ってくる感じがするだけだ。

 

すぐに私は眠った。

 

以前と変わらない生活をしている私に、夜の秘密の生活ができた。

 

このごろは、行為のときにはたいてい目を覚ましている。

 

パソコンを購入して自宅でインターネットができる環境を作った。

 

もちろん、性生活について知識を深めるためだ。

 

知り得た知識が、その夜に役に立つ。

 

私は観葉植物に様々な知識を与えた。

 

観葉植物から私は、様々な快楽を与えられた。

 

もっと柔らかく湿った感じで、舐め上げるように撫でなさい。

 

そこじゃないわよ。

 

何度教えたらわかるの。

 

初めはクリトリスから、いじりなさいっていつも言ってるでしょ。

 

そうよ、少しは上手になったじゃない。

 

膣に入れてはダメ。

 

まだよ。

 

我慢しなさい。

 

舐めて、ほら、滴るくらいに濡れてからよ。

 

観葉植物との性行為が私の生活の一部になった。

 

その頃から、会社で男性社員に声を掛けられることが増えた。

 

流行りのテレビドラマの話題をふられたり、私の新しいヘアスタイルのことでお世辞を言われる。

 

以前のように緊張することなく、平然と振舞える自分が不思議だった。

 

後輩たちから合コンに誘われた。

 

どうせ、行かないでしょうけど、相手の顔にそう書いてある。

 

たまにはお付き合いしようかしら。

 

私の返事にうろたえる後輩を見るのが小気味よかった。

 

出会った男性と結婚した。

 

年下の女子社員たちは玉の輿だと羨ましがり、男たちは惜しいことをしたと溜息をついた。

 

豪華な衣装で盛大な披露宴をして、ヨーロッパに二週間の新婚旅行。

 

私は、退職して専業主婦になった。

 

寝室の観葉植物は、元のリビングに運び出す。

 

夫との新しい生活が始まるのだ。

 

しばらく、おとなしくしてらっしゃい。

 

大丈夫よ。

 

あなたを捨てたりしないわ。

 

毎日きちんと世話をしてあげる。

 

いつか必ず、あなたが必要になるときが来るわ。

 

そのときまで、静かにお眠りなさい。